ヨコヅナアリ、というアリはご存知でしょうか??
その魅力的な姿や生態から、アリ飼育界隈では言わずと知れた人気者です。
・・・が飼育には一癖も二癖もあり、いわゆる「難関種」としてもその名を轟かせています。
しかし、全国のアリファンの「このアリを飼育してみたい!」という想いは止めようもありません。そんなマニアたちのために、個人的な見解を含めて色々と調べてみました!
基本情報
飼育方法の前に基本的な情報について簡単に。
分類
ヨコヅナアリCarebara diversaはフタフシアリ亜科カレバラアリ属に属するアリです。以前はヨコヅナアリ属Pheidologetonとして分類されていましたが、現在はカレバラアリ属に統合されました。また、いわゆる「ヨコヅナアリ」には何種類もいますが、日本でヨコヅナアリと言うと今回紹介するC. diversaを指していることがほとんどだと思います。
分布と生息環境
主な生息地は東南アジアのような高温多湿な熱帯域です。日本の沖縄本島や小笠原諸島の父島からも記録がありますが、人為的移入による偶産である可能性もあるので正確なことはわかりません。確実な生息北限は台湾及び中国となっています。また、生息地では林縁や人家の近くの比較的自然度が低い場所の土中や石の下に営巣しているようです。
生態
ヨコヅナアリの最大の特徴的といえば、同じ種類でありながら様々な大きさの働きアリがいるということです。下は大体の大きさを示したものです。
女王アリ | 20~24mm |
マイナーワーカー | 3mm |
メジャーワーカー | 6~18mm |
雄アリ | 15mm前後 |
女王が20mm以上なのに対して、最も小さいマイナーワーカーは3mmしかありません。約7倍もの差があります。一般的な女王とワーカーとの体長差があるアリでは2~3倍程でしょうか。こちらはまるで大きな岩にでも乗っているようです。
そして、なんと言ってもメジャーワーカーの体長差がすごいです。最も小さいタイプから大きなものまで3倍の差があります。
働きアリは大きさによって与えられた仕事は異なり、マイナーワーカーは餌の調達や育児を行い、メジャーワーカーは行列の警備や餌の解体を行います。
そしてもう一つの特徴は巨大なコロニーによる行列を作るということです。ヨコヅナアリの成熟したコロニーは女王が複数匹、ワーカー数万匹もの大群で構成されます。ここまで巨大になると、引越しや採餌のための行列が数日間に渡って続くことがあり、それゆえに「略奪アリ」という異名まであります。ストレスに弱い難関種とは思ませんね笑
また、引っ越し行列もとい、『進軍』は頻繁に行われます。自然下では同じ巣に長い間居続けることはあまり無いようです。
そして基本的には光を嫌います。数日間にわたる行列を作る時には土などで自分たち専用のトンネルを作る習性もあるようです。夜行性ではなさそうですが、うまく直射日光を避けて移動する術を持っているんですね。
飼育について
いよいよ本題の飼育情報です。購入からセッティング、維持方法まで流れで説明しようと思います。
購入
戦いはここから始まっていると言っても過言ではありません。
どこで買う?
外国産のため、アリの専門ショップからの購入となります。以下にオススメのショップを上げておきます。
最も入手しやすいのはAnt Museumさんでしょう。入荷数や入荷頻度も多いですし、頻繁にサイトやSNSをチェックしていれば確実に手に入れることができます。次に皆さんご存知Ant Roomさんです。Ant Roomさんはヨコヅナアリをイベント時に入荷していることが多いです。ただ、人気すぎてすぐに売れ切れてしまうため入手は少し難しいと感じます。私は両方から購入していますが、どちらもとても良い状態で入荷してくれるので有り難いです。
購入の際の注意点は?
購入する時は、なるべく女王とワーカーが多いコロニーを購入しましょう。お金は多少かさみますが、失敗するよりかはマシかなと思います。私は見た事がありませんが、女王のみやワーカー数匹のものを購入するのはやめた方が良いでしょう。不可能とは言いませんが、難易度は桁違いに上がると思います。
購入の時期も大切です。冬場に購入するのは極力避けましょう。どうしても欲しい場合は仕方ありませんが、ヨコヅナアリは温度変化にとても弱いため、死着のリスクが高まってしまいます。上の二つのショップであれば、カイロを入れて発送してくれますがリスクは少ないに越したことはありません。
セッティング
一つのミスが失敗に繋がります。。。
飼育容器は?
飼育容器は以下の二つをオススメします。
- アリマシーン
- 試験管石膏巣
一番オススメなのは、Ant Roomさんのアリマシーンという縦置き型の石膏巣です。高湿度を常に保てるので、多湿環境が大好きなヨコヅナアリにはぴったりの巣です。また、ヨコヅナアリを観察していると、天井から吊り下がって育児をしている様子が見られます。平置きの巣ではこれがしにくいので、そういう意味でも縦置き型が自然に近いのかなと思います。
次に試験管石膏巣ですね。こちらも湿度調整がしやすいのでオススメです。コロニーが安定しているのならばこれでも問題はありません。こちらはAnt Museumさんで購入できます。
購入時は基本的に平置きの石膏巣で届くので上記の巣に移動させましょう。移動後はコロニーの大きさに見合った餌場を用意します。この時、餌場の湿度も高くするといいかもしれません。給水所を兼ねた濡れティッシュをおいたり、餌場に直接石膏を敷くのもありです。(餌場にはベビーパウダー等を忘れずに)
新しい巣には直接光を当てないように注意しましょう。マイナーワーカーはちょっとしたストレスですぐ死んでしまいます。アルミホイルなどで暗黒状態を作るのがベストです。
温度は?
25℃~30℃が適温となります。保温をしっかりとしましょう。20℃以下、または35℃以上になるとワーカーが死に始めるので注意してください。 (私は都合上25℃で飼育をしていますが、成長が遅いので30℃近くあったほうが良いかもしれません。)
維持方法
セッティングが終わったらあとは悪夢の1ヶ月をどう乗り越えるかです。頑張りましょう!
なぜ難関種なのか?
ヨコヅナアリが難関種とされるのは、飼育開始直後にストレスに弱いマイナーワーカーが大量に死んでしまうためです。マイナーワーカーが死ぬと育児や女王への餌の供給ができなくなるので、コロニーは1世代で終了してしまいます。従って、2世代目が羽化するまでなんとかしてワーカーの死を最低限にしなければなりません。
下の表はカースト別の成長日数を示したものです。(温度による成長時間の変化はあります)
卵から孵化まで | 10日前後 |
幼虫から蛹まで | 10日前後 |
マイナーワーカーの羽化まで | 10日前後 |
メジャーワーカーの羽化まで | 調査不足 |
女王アリの羽化まで | 調査不足 |
雄アリの羽化まで | 2週間前後 |
上記をみて分かる通り、卵からマイナーワーカーが羽化するまで約1ヶ月となります。この1ヶ月を乗り越えることがヨコヅナアリ飼育において最も重要であり、難しいことなのです。
餌は?
雑食性でなんでも食べますが、肉餌だけで飼育する事が可能です。私は基本的にレッドローチのみを与えています。ただ、自然下では植物の種子も好んで食べるようなので、コロニーが大きくなったら与えても良いかもしれません。
そして意外に忘れがちなのが飲み水の有無です。これがあるとないとでは維持成功率が格段に違います。マイナーワーカーは水をかなり飲むので、餌場に給水所を確保してあげましょう。
安定したら?
2世代目が誕生し、安定してきたらもう勝ったも同然です。ひとまずは安心しましょう。あとは今まで通り、飼育をしていくだけです。餌ぎれや湿度不足など油断をしなければ爆発的に増えてくれるはずです。さらに時間が経つと、新女王や雄アリが生まれて巣内交尾が起こり、新たな女王誕生も夢ではありません。
ちなみにオスだけ生まれてくる時もあるのですが、その場合は残念ながらそのうち殺されて終わりです。可哀想ですが、オスは交尾できないとコロニーとしてはただ邪魔な存在なのです。
それでもダメだったら?
ここまでやっても生き物ですから死んでしまうことはあります。もし、ワーカーの死が止まらず数が極端に減ってしまった場合、正直再興は難しいでしょう。別のコロニーが手に入るのならば苦肉の策として、コロニーの合併を行ってみてください。基本的には難しくないようですが、産地の違いによっては難易度は上がる可能性もあります。方法は単純で、
- 死にかけのコロニーの女王に新コロニーのマイナーワーカーを当てがう。
- マイナーワーカーの攻撃的な反応がみられなければ、徐々に数を増やす。
- その後、新コロニーに投入する。
です。ただ自分では試したことがないので、実際の難易度については正直わかりかねます。。。
この時に死にかけのコロニーにメジャーワーカーが残っていた場合、これを新コロニーに投入するのはやめた方がいいでしょう。何か問題があった時に新コロニーの女王が殺されてしまう恐れがあります。
最後に
長くなってしまいましたが、いかがだったでしょうか。参考になりましたら幸いです。一応飼育成功率アップに必要な方法についてまとめておくと、
- 規模が大きいコロニーを買う
- 縦置き石膏巣で高温高湿度を保つ
- 肉餌中心に与えて、飲み水を忘れない
- 餌場も湿度を高く
- 直接光を当てない
こんなところでしょうか。上記を実行できれば飼育成功率は必ず上がるはずです。私も飼育3回目でようやくうまくいきそうなので、油断はできませんが新女王の誕生を目指して頑張りたいと思います。では、最後までご覧いただきありがとうございました!
※これらはあくまで成功率をあげるための方法ですので、100%うまくいくとは限りません。ご了承ください。
参考
- 日本産アリ類画像データベース
- antwiki(海外アリ情報サイト)
- antscanada(海外アリ販売サイト)
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